Agrio(時事通信)掲載

「食と農と福祉の連携」の担い手とは
=コミュニティーワーカーの必要性=
―特定非営利活動法人 地域福祉研究室pipi理事長・渡邉洋一―

 「食と農と福祉の連携による魅力的なまちづくり」研修会が9月末に、公益財団法人全国市町村研修財団・全国市町村国際文化研修所の主催で滋賀県大津市で開催された。全国の市町村自治体職員を対象とした研修会で、「食・農・福祉連携」がテーマとして取り上げられたのは初めてだという。研修会対象者は基礎自治体の公務員で、今回は福祉関係者だけでないことに特徴があり、企画部局、農政部局、総務など多様な部署からの参加があった。おそらく、多様な部署からの参加と全国の自治体からの参加という相乗効果もあったのではないか。ただ、テーマからか大都市自治体からの参加が少なく、地方部の自治体から参加が多かったのも特徴だ。

◇研修会のテーマとコンセプト

 研修会の講師として、図1のような「食と農と福祉の連携」との協働の効果について説明した。
 さらに「村社会や集落」は、食(饗宴・伝統食)と農(農林水産業のなりわい)と福祉(相互扶助)の連携が混在してコミュニティー機能を果たしてきたという歴史について講義した。
 そして、現代社会で起きている「介護」「障がい」「貧困児童」などの課題は、税金による福祉サービス(公助)が解決すると考えられてきた。
 しかし、「生活困窮者」「介護難民」「引きこもり」「自死」などの課題は、税金を配分するだけでは解決していない事実がある。福祉サービス(公助)を提供することで問題解決する基盤の「家族」や「地域」が疲弊していることが原因のようだ。換言すれば、もともとの地域社会や集落は、家族の機能や地域の機能が豊かで、公的サービスは付帯的なものでも解決可能だった。
 それは、豊かな人間関係や社会関係が地域社会の冠婚葬祭や相互扶助活動(共助・互助の活動)が豊かに展開されてきたことが背景だ。
渡邉洋一-農と福祉- しかも、障がい者への殺人行為、無差別殺人といった新しい事件の背景には、人間関係の希薄化によって、地域社会や近隣の相互扶助の力が低下していることがあるかもしれない。そこで講義では、地域社会での「食(饗宴・伝統食)」を媒介として、豊かな人間関係を醸成し、農林水産の「なりわい」を再生し、それを支える相互扶助活動を再構築することを提案した。ここでのコンセプトは、「人間関係の醸成」と「新たな社会関係の創生」を食と農と福祉の協働の展開に期待することだった。
 具体的には、観光農園(青森県おいらせ町「アグリの里おいらせ」他)や高校生レストラン(三重県多気郡「まごの店」他)、島根県邑南町「食の学校」、各地の観光レストランや農家レストランなどで実践例がある。単なる6次産業化ではなく、食の「饗応」文化を背景に、地域創生や人間関係の醸成によって相乗的な効果を生み出している。この実践は新しい視点での食文化への原点回帰といえるだろう。
 6次産業化や観光を組み合わせたインバウンド効果、農福連携だけではなく、食文化を加えた「里山・里海の文化」を創世することから、豊かな地域社会を作り出すことである。

◇”食と農と福祉の連携”を担うコミュニティーワーカー

 今回の研修会では「食と農と福祉の連携」を担う人材は誰か、という課題設定もあった。
 福祉関係者だけではなく、農協職員、公民館主事、保健師、道の駅職員など地域を業務対象とする人材が第一に想定できる。
 さらに、民生児童委員や農協婦人部、地域おこし協力隊、「年金生活者インバウンド(都会の年金生活者による交流人口の参加=渡邉の造語)」も参画することで豊かな地域社会が創生することができる。
渡邉洋一-農と福祉- 図2は、農林水産省所管の「地域における食と農と福祉の連携に関する調査事業報告書」の中で筆者が提案して作成されたものだ。同報告書では、聞きなれない用語ではあるが地域を担当するコミュニティーワーカー(欧州で活躍する専門職)の必要性を提起した。コミュニティーワーカーという用語は、福祉の領域を超えて使用されてきたもので、地域社会での食と農と福祉の連携を進め、その土地の特性に根差して、関係機関や団体間の社会関係を調整する。また、個々の人間関係を豊かなものにするとともに、ネットワークを構築することで「縦割り組織」を横断的な活動できる組織へと変革し、福祉の町づくりにあたる者と欧米では理解されている。

◇残された課題
 「食と農と福祉の連携」の担い手(コミュニティーワーカーの必要性)について検討してみると、これまでのわが国の専門職は、縦割りの組織(福祉施設・農協など)に属していて、包括的な街づくりを担い、食と農と福祉を協働させる方法や技術は確立されていなかったことが分かる。
 この新しい専門職としてのコミュニティーワーカーは、街づくりの専門職として観光立地や企業誘致などを担当する。新たに、食(伝統食、饗応文化、冠婚葬祭など)の展開、農林水産の「なりわい」との連携やその促進の役割を担う。
 さらに、コミュニティーワーカーの業務に、「相互扶助という地域力」や「社会福祉施設の職員の参加」を促進することで大きな展開が期待できる。従って、この「コミュニティーワーカー」についてわが国の専門職として具体的に検討する必要がある。
 現在、取り組まれている「農・福の連携」では、高齢者・障がい者本人が直接、農作業に参加することには限界がある。車いすでは畑に入れないし、知的障がい者による草と作物の区別も課題だ。農林水産業という仕事を直接、病弱高齢者・障がい者本人が担うことは困難といえる。ここに”食”を組み入れることで、食品の生産に参加(知的障がい者のパン・クッキーなど成功事例も多い)したり、売店を経営したりするなど多くの事例がある。このように「農・福の連携」を超えて「食」を加えた「食と農と福祉の連携」について具体的に検討する必要がある。

・・・渡邊 洋一(わたなべ よういち)
 日本社会事業大学大学院博士後期課程(中退)社会福祉学修士
 日本社会事業大学や聖カタリナ大学専任講師、淑徳大学、青森県立保健大学大学院教授を経て現職
 地域における食と農と福祉の連携の在り方に関する検討委員会(農水省)座長
〔主な著書〕
「コミュニティケア研究」 「コミュニティケアと社会福祉の展望」 「コミュニティケアと社会福祉の地平」(単著・相川書房)「メンタルヘルスと自殺対策」(共著・相川書房)「地域福祉論」(共著・中央法規及び全社協)他多数

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