年頭の挨拶-渡邉洋一

2017年賀状 寒中お見舞い申し上げます。
 新しい地平を開(拓)くべき時代がきています。
 今日の時代状況は、これまでの価値規範で、新しい地平を見渡すこと、その問題解決は困難となりました。
 今日的には次のような課題があります。

① 環境的変動要因(気候温暖化・地殻変動等)
② 経済的変動要因(グローバリズム進展・資本主義の限界・格差の拡大等)
③ 財政的変動要因(国家の負債膨張等)
④ 人間的変動要因(テロリズム・個の資質劣化・遺伝学的課題等)
⑤ 人口的変動要因(本邦の高齢化・単身化・未婚化 ・ 国際的な人口爆発)
⑥ 教育的変動要因(教育の機会均等の劣化・世代間の知恵の継承の劣化・教育格差の顕在化等)

 地球環境という限りある住まう人類は、上記のような課題に直面しています。

 新年を迎えて、前記の視点で熟考してみたいと思います。
 具体的には、地球規模の開発・拡大・拡張には限界があります。
 地球環境からみて、社会全体をダウンサイジング(縮小化・効率化)する必要があるからです。
 また、民主主義には大衆化という限界があり、大衆迎合主義は、地球規模の将来設計を不可能しています。
 国連などの国際的視点は、各国家の利害優先によって減退しています。
 平和を希求する立場からは、国家間の戦争は当面不可能となりましたが、テロリズムによる平和が脅かされています。

 本邦でも、国家財政の危機(プライマリーバランスが未設定。1000兆の負債等)があります。
 また、本邦では人口の高齢化・未婚化・家族機能の劣化に直面しています。
 あわせて、地方自治制度の限界(首長と地方議員による二元代表制の劣化・市町村の規模の問題等)があります。
 さらに、本邦の社会保障制度も、年金の危機や医療制度の課題や介護問題や少子化問題などによって、危機的要因が顕在化しました。
 とりわけ、社会福祉の課題は、介護保険制度があり、財政的限界や生活困窮者自立支援法の課題が示す、引き籠り・孤立化・児童貧困・自死等の顕在化です。
 このような結果、地域社会の劣化などを背景にして、地方創生の課題の顕在化と、都会の社会病理学的課題の顕在化などによって、危機的な状況となっています。
 社会福祉の領域の具体的課題は、社会福祉の実施体制の劣化(社会福祉法人の限界・社会福祉士等専門職の劣化)がみられます。

 このような熟考を加えた結果、個人的な意見を提起してみたいと思います。
 それは、社会福祉の里山化という視座です。
 里山福祉とは、農林水産の生業の見直しによるコミュニティビジネスの創出と、相互扶助の仕組みの合わせ技による社会福祉の制度化との調和への期待です。
 私たちは、平成26年度に、農水省所管の‘地域における食と農と福祉の連携に関する事例検討委員会’の報告書を提出しました。
 まさに、‘地域における食と農と福祉の協働’の肝は、‘劣化した福祉’と‘劣化した農林水産業’を解決するために、‘食の文化や饗応の仕来りによる地域経済的の強化’は、新しい地平を模索すること
が期待できるからです。
 ‘農林水産の既得権益’や‘社会福祉の既得権益’は、イノベーションが必要です。
 例えば、‘農協の問題’や‘社会福祉法人の問題’は、戦後護送船団の矛盾として時代的錯誤観が顕在化しています。
 それは、個々に‘既得権益’があるからです。
 具体的には、農家の食い物にする農協組織や、障がい者や高齢者の福祉問題に寄生する社会福祉法人の存在が顕在化しているからです。

 このことを見渡す展望に、里山福祉の構想があります。
 ‘食の伝統食’や‘食の饗応による相互扶助の復権’は、里山・里海の仕来り・慣習の見直しによる里山福祉への期待です。

 論点を変えます。
 地域福祉の研究者として筆者は、次のことを提起します。
 今日的地域福祉は、ボランタリズム劣化や地域社会の縮小等によって、一見期待されているかにみえます。
 しかし、国家や地方自治体の責任転嫁の手段化している面が顕在化しました。
 地域福祉に期待されているのは、国家の財源力の低下の代替手段として、社会保障経費の削減の視座からです。
 社会福祉は金がかかるから、住民参加による地域福祉を期待することは、国家による責任転嫁に他なりません。
 このように、今日的な地域福祉は陳腐化したことを指摘することから、さらに下記のように考えています。

 里山福祉は、極論すれば、今日的な制度観の地域福祉の消滅を意味します。
 それは、政策上の‘社会福祉の地域化’と地域社会の‘相互扶助の復権’や‘農林水産型コミュニティビジネスによる社会福祉の経営’を提起しています。
 背景には、戦後の社会福祉の領域が矮小化されてきた歴史があります。社会福祉を狭くして、入所施設という問題解決や入院による問題解決に依存してきました。
 ‘人間福祉’の視点が弱かったとも言えます。
 ‘人間不在’の社会福祉であったという反省です。
 ‘租税の配分’への過度な依存
 ‘寄付文化’の不在

 このような契機で、期待されている地域福祉は、社会福祉との差や違いを問うことなく、今日を迎えました。
 社会福祉と地域福祉の‘差’が問われなかったのです。
 このように、地域福祉の在り方の論争が不在です。
 ‘社会福祉’と‘地域福祉’は、どのように異なる仕組みと、価値観をもっているのでしょうか。
 筆者は、これまで、拙著‘コミュニティケア研究(相川書房)’や‘コミュニティケアと社会福祉の地平(相川書房)’などを世に問いました。
 それは、まさに、社会福祉と地域福祉の差を論考するためでした。
 さらに、‘地域福祉型社会福祉の創設’を提起しました。
 その将来構想として‘風土型社会福祉の展望’を世に問うことでした。

 このことは、分かり難く難解であると指摘されました。
 そこで、その地域社会の産土(うぶすな)を考えてみると、‘風土’と‘里山’という用語に行きつきました。
 とくに、‘里山’という概念には、饗応文化や相互扶助や地産地消や農林水産の文化を含み、自然との調和の視点があります。
 ‘里山に学ぶ’ことは、我々の暮らしの産土(うぶすな)に学ぶことでした。
 ここには、‘暮らしの心地良さ’があります。
 たとえ、貧しい生活であっても安寧の境地を見出すことができます。
 ‘里山’には、素朴な暮らしの営みがあり、そこには、豊かな人間関係や社会関係をみいだすこともできます。
 ‘暮らしの産土’には、‘関係’が豊かであることが原点でした。
 このような‘里山福祉’は、都会の再生と地方の創生という視座を明確化する力があります。

 私たちは、‘農水省所管の‘地域における食と農と福祉の連携に関する事例検討委員会’の報告書’において、このような論点を検討しました。
 もちろん、座長である筆者の個人的意見を組み入れて、上記の里山福祉の整理をしています。

 この‘地域における食と農と福祉の連携に関する事例検討委員会’の報告書は、農水省のホームページでみることができます。ご参照ください。

 最後に、社会福祉の置かれている課題から新しい方向を提起してみます。
 地域福祉型社会福祉は、より地域福祉を組み入れて、風土的社会福祉へ変化させていく必要があります。まさに風土です。
 住民の主体の形成や暮らしの自己責任が問われてくると思います。
 住民自治の課題や新しい公共の概念が問われていることです。
 ここには、自治型の地域福祉の論点(右田紀久恵)があります。

 さらに、地域福祉型社会福祉は、風土的社会福祉を経て、社会福祉の枠組みを破り、里山福祉へと昇華すると予想します。
 ‘社会を基盤とした福祉’や‘地域を基盤とした福祉’から‘里山を基盤とした福祉’という展望です。
 ここに‘食と農と福祉の協働’の論点があります。
 言い換えれば、‘食と農と福祉の協働’による矮小化した社会福祉の改革です。
 それが里山福祉というビジョンです。
 このような論考は、前記した拙著に詳細に検討しています。
 新しい社会の地平を展望することでもあります。

 残された課題としては、本年も、‘食と農と福祉の協働’を進め、里山福祉をより具体的に進めてみたいと思います。
 皆様のご活躍を祈念いたします。

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渡邊洋一地域福祉研究室
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